催眠都市短編小説
『赤目の蜘蛛』
−地雲の章−

運命の日の前日。

士気を高揚させるという名目で、妖精国の首都催眠都市、全土から集められた防衛隊の前で、パレードが行われた。
王スメラギが派手な山車に立ち、群集に笑顔を振り撒く様を遠くから見つめる三人が居た。
その風体は異様と言えずには居れまい。一人は、まるで油絵の具をぶちまけた様な肌をした若い女。一人は、ナナフシ族とも見えない、2メートル30センチ以上の大男。そして三人(?)目に到っては、女の顔の両側に金属だが何かの作り物の羽根を付けた悪夢のような姿で宙に浮かんでいる。
「警告!宮廷の走り使いにでもやらせればいいものを、何故我らが一々巨大モニターを設置しなければならないのだ!」
どうやら彼らは高層建築物の一室の中にいるらしい。
大男は、一声低くうなる。どうやら言葉を喋れない生物らしい。
(まぁしけない色夢。刃金、トランスミッタ取り出す。)
と言いたいらしい。顔に羽根のついた「刃金」と呼ばれた機械は、小さな、緑色のくるわ十字の模様と、アンテナらしきもののついたプラスチックの物体を取り出す。
色夢と呼ばれた女は、そのこの世の色彩全てを集めたというような顔を、勝気な笑顔に変え、にやりとつぶやく。
「注意!思い出すな、この街を建設した600年前を!最初は我々三人だけだったな!」
(色夢しっかり持て。モニタしっかりすえつける。)
まるで何年も連れ立ってお互い全て分かりあった親友の様に、かいがいしく作業する三つの生き物。
彼らのいる階の外壁に、5メートル程の巨大モニタをすえつける。
次の建物に移ろうとする色夢に、大男がまた呻き声で呼びかける。
(色夢、おれ悪い予感する。自分の世界帰った方良い。おれ王様の面倒見る)と言いたげ。
そんな事出来る訳がない。二人ともそれは良くわかっていた。それに、長年−彼ら神人に通常の時間感覚ははないにせよ−連れ添って来た仲間なのだ、例えどこぞの世界に逃げ場があるとしても見捨てるわけなどない。
「警告!心配無用だ、銅金。それより、注意!トランスミッタをなぜそんな所においている。モニタに取りつけるのではないのか?」
(刃金これでいいのか?)
刃金は一切表情を変えないまま(どうやらその性能は備えていないらしい)こくりとうなずくような動作をした。
世界の真実を誰よりも知るものとして、色夢は複雑な表情で階を後にする。

その頃地上で、王は手を振っていた。
その目に、一人どこか異色な男の姿が目に入る。
手を振る手は休めないまま、「小間使い」と呼ばれた、傍らの小柄で腰の曲がった老人に、王は聞いた。
「あのゴケグモ族…あれは誰だ。」
小間使いは、どこか渋そうな顔をしながらこう耳打ちした。
「ああ、あの人は地雲さんちゅうてな、この街の呉服屋『後家殺屋』のご主人ぢゃて。良くワシも眼鏡さん等とお使いに行くですわ。ワシのふんどしなども揃えてもらっておりますぢゃ。」
老人は、明日に修羅場を控えた街の住民とは思えぬすっとぼけた返答をする。
非人間種族を中心とした、いかにも戦慣れした傭兵たちの間を歩き回り、割引券をしきりに勧める笑顔の男。その赤い肌、真円型の紅蓮のまなこ、金色の髪、そして袴の合わせ目から見える胸の上の黒い大輪の模様は、彼が製糸種族として名高いゴケグモ族である事を示していた。
「あの男は要チェックだ。」
王は急にいつもの笑顔を解き、一人ごこちた。
(あるいは明日、レイの襲来までは持つな…)
などという考えは口には出さなかった。
「ほう…?あの目玉の若旦那さんが、ですかの?」
「銀爺はまだ人を見る目というものを養う必要がある。」
王が老人を「ぎんじ」と呼んだ時のイントネーションには妙な響きがあった。
少し離れた所では、悠然と長いすに寝そべり、巨大な脚を投げ出しながら、瓶から直接飲み物を飲んでいる、どこか肉感的な女がいた。髪を後ろで紙で束ね、端正なその顔立ちはしかし片目が完全につぶれており、ちょっとやそっとの戦歴を経ていないことが一目で分った。「おい、銀爺、次を持って来い!」「ほいほい、鎌々さんの為なら死ねますぢゃ」
王は女の凶々しいがどこかだらしない笑顔を見ながら思う。
(真に闘った時に強いのはああいうのではない。認めたくないことだが、妖精国を作ってきたのは、私ではなく地の妖精たちだ。あの赤目のような…
まぁ明日になれば関係ないことだがな。)
老人の飄々とした後姿を見つめる時の王の目線は、邪悪な何かをたたえていた。

後家殺 地雲(ごけごろし じぐも)。25歳。妖精国最大の呉服屋(洋装も扱っている)チェーン「後家殺屋」の当代の主人である。幼き日から、その種族の肉体が生産する、繊細かつしなやかな蜘蛛糸(ゴサマー)を使用した、紡糸から衣装作成、採寸、コーディネイトに到るまでの英才教育を受けてきた。無論、戦闘訓練など受けている筈もない。

そんな彼が、次の日、デクの群れが空より襲来すると同時に、自慢の蜘蛛糸を、自社ビルの30階へと伸ばし引っ掛け、いち早く倉庫の中にしけ込んだのはまぁ当然であろう。
「ふぅー。このお店壊されたら大変でヤンス、と思って、アチシも諸肌脱ぎになって、この袴も緑の『破れ袴』にしてみたんでヤンスが、やっぱり命あっての物種でヤーンス…」
原料の糸の中に隠れている場合か。
「あの強そ〜なお姉さん達が頑張っててくれる間、アチシは営業再開に向けてお店の番をするヤンス!」
妖精国では女性の方が大抵肉体的に秀でていて強く、数も男性に比べて多い。
「昨日のパーティーで割引券も大分はけた事だし、明日の『デク襲来記念大感謝セール』が楽しみでヤンスよ!最近全土で売れ行きガタ落ちだったでヤンスからね!」
と言った後で、呉服屋は支店からの報告を思い出す。
それによれば、デクに襲われた街には一人の妖精も残らないというのだ。
「あまり…考えたくないでヤンス。」
考えから頭を逸らすために、呉服屋はこの街が和やかだったかつての日々を思い出した。といっても数日前の記憶だが。
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その暑い昼下がり、地雲は例によって「後家殺屋」本店の店前に立って、名物の「百万ドリカムスマイル」を振りまいていた。
「さぁさ、お嬢さん!お姉さん!かわいいお洋服、シックな和服のきこなし、アウトドアには欠かせない防御服、何でもそろってるヤンスよ!さぁ後家殺屋、後家殺屋、夏の新装開店大セール開催中、お蔭様で16フロア17フロアも営業フロアに改装ヤンス!」
もみ手をたくみに交えて動き回る細身の彼の前に、一人の眼鏡をかけた、三つ編の可愛らしい少女が小走りに掛け寄ってきた。
「た〜まちゃんはか〜わいいのだ〜」
そのはち切れんばかりの元気をたたえた少女は地雲の前で立ち止まり、両手をあげながら地雲に話しかける。
「やぁやぁ!店長さんは可愛いのだー真っ赤っ赤なのだー」
営業スマイルを崩さず(彼は常に歯丸見えの「常笑い」タイプなのだが)、地雲は店員を呼びつけようとする。
「あれま〜可愛いお客さんでヤンスね〜。ほら、誰かこちらのお子様に飴玉差し上げるでヤンス!」
自分の事を「珠ちゃん」と呼んだその子はすねる。
「珠ちゃんはお子様じゃな・い・の・だ!可愛くないのだ。ぶーなのだ。」
しかし本気で怒っていない証拠に、少女は紙袋を差し出す。
「店長さん珠ちゃんの造ったポテチ食べるのだ。可愛いのだ。」
普通の妖精なら唖然としてしまうような三つ編少女のこの行動にも、『接客の神様でヤンス』を自任する地雲は平然と対応する。しかし。
「(ぽりぽり)…あんまりおいしくないヤンスね…」
塩物は苦手らしい。
少女の顔が曇る。どうも彼とした事が、珍しく機嫌の悪い表情を見せてしまったらしい。
「(マズいヤンス…)ささ、お客様、どういったご用件でヤンス?今流行の羽根カバーでヤンスか?」
女性の妖精たちの多くは背中に羽根を持っており、種族ごとの特徴となっている。バッタ族(「いまいましい泥棒さんたちでヤンス!(怒)」)のように高速で移動するために使用している種族もあるが、大抵は盲腸と同じく無用な長物でしかない。飛べない羽根。
「ぎんじ〜のふんどし引き取りに来たのだ〜」
モンシロチョウ族の羽根をつけた少女が顔いっぱいの笑顔で答える。
「あーすっかり忘れてたでヤンス!!いっけないでヤンスね〜。あの宮廷の銀爺さんのふんどしなら5フロアで取り寄せておいたでヤンスよ。お値段は1590ドリでヤンス!」
妖精国の金銭の単位はドリカムだが、誰もがドリと略して呼んでいる。「夢」に関した言葉が多いのが妖精国の言葉の特徴だ。
「店長さんありがとうなのだ!可愛いのだ!」
少女は店内の階段目指して消えていく。
(お嬢ちゃん「ふんどし」なんて大声で言わない方が良いヤンスよ…それにしても、あのお爺さん、本当は幾つなんでヤンスかね?)
先代の話によれば、もう何百年も銀爺という男はこの街の宮廷に住んでいて、しかもずっと同じくらいの年の老人らしいのだ。その正体にしても、王と同じ「銀アゲハ族」という事以外は何も分らず、それとても本人がからかわれた際に「ワシとても最高種族なんぢゃぞい!」と滑稽に主張しているに過ぎない。
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(それにしても、銀アゲハ族といえば、あの夢将軍さん、あの鎧も兜もセンス最悪ヤンス!いつか、アチシが後家殺屋の威信にかけてでも、かわいいお洋服を仕立てて差し上げるでヤンス!いや浴衣なんかもきっと似合うでヤンス!)
そこで地雲は現実に引き戻された。同じく、いつから居るのか分らない、最高軍人「夢将軍」その人こそ、数ヶ月前からデクを率いて王国の民を殺害している張本人なのだ。最高軍人といっても、今の妖精国には、国王直属の正規軍は100人しかいないのだが。
「なーにが”数万人も殺された”でヤンスか。この全国の『後家殺』チェーン全支店にお越し頂いたお客様はこの前10億人を突破したんでヤンスよ!試合に負けて勝負に勝ったでヤーンス!」
と妙な基準で自分に勝旗を上げる地雲。
「この前出たデクのトレーディングカード、アチシも買ったでヤンスよ。」
変な奴だ。
「あっ、アチシはオカマじゃないヤンスよ。」
誰に向かって言っているのだ。

その時、原料の糸の中をまさぐっていると、とある異物が混入している事を発見する。
「だーれでヤンスか?品質管理が駄目駄目ちゃんでヤンス。アチシも監督不行き届きでヤンス…」
と不満そうな顔をしながら、とりあえず鼻の上に載せて見る。
その異物は、軽い黒のプラスチック製で、緑のくるわ十字と、アンテナで構成されていた。
「何か的みたいでヤンスね…」
服屋の性か、身につけるものはとりあえず着こなしておく地雲だった。

しばらくして、中心部、初代市長とその妹の銅像が建っている広場から若い女の子数十人の悲鳴と、ここ数ヶ月ほど姿を見なかった「あの変態」の声が聞こえてきた。
地雲は「あの変態」の事を良く覚えてきた。日がなランジェリー売り場にきては、数時間かけて悪趣味なブラジャーやガーターを試着して選んで帰ったいった「あの変態」を忘れろという方が無理がある。
「アチシもお客様に色々頂いて来たでヤンスが、あの『変態侯爵』サンに頂いた青汁よりマズいのは無かったでヤンス!」
思い出し怒りすんなよ。
しかし何であの青い肌の変態がこの街に?そんな事を考えていた矢先、地をゆるがす轟音が聞こえてきた。

のん気な呉服屋も、何か大変な事が、外で起きている事を、ようやく理解しつつあった。
何か強大なエネルギーが空気を伝っている。古代においては、放出直後の糸の粘着力を生かして、高地を飛びまわり敵と干戈を交えていたという、ゴケグモ族としての血が、彼に丹念に織られた加工糸に埋もれて新型サングラス(?)のデザインに思いを馳せている場合でない事を教えた。
「何でヤンスかね?」
ガラス張りの壁に近づき、その200メートルはあろうかと言う巨大な人型にしては少々脚の長すぎる「なんか」が、右腕から得体の知れないエネルギーを放ちながら近づいて来るのを見たと思った次の瞬間、地雲の前で巨大な爆発が起こった。

ガラスが途端に粉々になり、その破片が室内に飛び散る。地面につっぷしやっとの事で赤い肌を護る地雲。
その紅の眼は、白い煙の中、ねじ曲がった鉄のかたまりが地面に飛来していくのをはっきりと確認し、またその耳は「お・ま・え・可・愛・く・な・い・の・だ・ー・!」という絶叫をはっきりと捕らえた。
「今のはあの可愛いお嬢ちゃんでヤンス!お客様を助けるのは店長の重要なお仕事ヤンス!」
今から蜘蛛糸で捕らえれば助けられるかもしれないと思ったその刹那、4体の「デク」が彼の前に現れた。

「ウフフフ」
「ギギ」
「キシシ」
「キャハハハ」
この世のものとは思えない邪悪な笑い声が地雲の耳をつく。
セーラー服を縫い付けられた人造妖精「デク」たち。背中のジェット推進機構で襲撃するその姿には、広く「刃金デザイン」と称される、この王国のメカニズムにありがちな欠陥が故の愛らしさは微塵もなく、明らかに王国とは別の意志が宿っていることを示していた。その携えたモップは既に血でまみれている。
呉服屋に反応する隙も与えず、ビル内に進入したデクたちは、口らしきスリットから怪光線を放った。
ゴケグモ族の妖精たちが思いを込めて造りだし、丹念に心をこめて織り上げ、そして後家殺屋オータムセールの目玉製品の元となる筈であった原料糸全てが、一瞬にして溶融し素粒子レベルまで分解された。
生命あるものの存在を感知した、4体のデクが一斉にふり向こうとする。
しかし、それらの体は、地雲の指先から放たれた、しなやかでかつず太い蜘蛛糸に一瞬の内に固定されていた。
糸を腕に巻きつけ、しっかり固定した呉服屋の口元の笑顔が、別な意味に見え始める。
「ヒャヒ…ヒ…ヒ…ヒ…」
新しいアクセサリーに上に光点が生じ、かすかに点滅を始める。

呉服屋の体の中の、遺伝子に埋め込まれた神経回路が一斉に闘争ホルモンを分泌し、赤い体の血流をさらに高めていく。
「許さないヤーンス!」
呉服屋は、まばたきしない紅蓮の目を、白い糸にとらえたデクにまっすぐ向けたまま、突撃(チャージ)する。
呉服屋の体が、しなやかに変形する。その紅に染まった肉体は、まさに糸を伸ばしながら獲物に近づく蜘蛛のように腱の一つ一つを、意志そして意志以上の反射と呼ばれる、古代ならば魔法がかりと呼ばれただろう神経運動で、着実に、おぞましき「デク人形」たちの関節、被覆、その禍禍しい形をした耳を破壊していく。
踵による炸撃、肘による破壊、そして頭突き。期せずして、自分でも意識した事のなかった叫び声が喉をこみ上げる。
「ヒャッハーッ!」
「ヒャーハッハッ!」
数十秒後、斬撃とすら言える地雲の闘いのラッシュを真っ向から受けた4体のデクは、動作せぬスクラップとなっていた。
床にこぼれた潤滑油の臭いに地雲は顔をしかめる。
「センスの悪いセーラー服でヤンスね。これ着せた人はアチシに一言相談して欲しかったでヤンス。」
そんな呆れたコメントを発そうとしていた地雲の側の、破壊された彼のビルの壁の向こうに、鋼鉄の鎧人形のような姿が通り過ぎる。
「あれは…夢将軍さんでヤンスか?」

催眠都市に住んでいた妖精の中で、最も神秘的な、顔の下半分以外を全て銀色の鎧兜で覆った、「夢将軍」。今、催眠都市を襲っているのは、自ら「夢魔将軍」と名乗るそれ、しかしその巨大な一対の羽根の殆どにはしわ、裂け目、破れ目が入り、にも関わらず壮絶いや荘厳とも言える気品を持って悠々と空を舞っていた。上古の世では全ての羽根持つ妖精が空を自由に飛翔したという。
ファッションリーダー(?)地雲は考えた。
(かわいーい羽根カバーが必要ヤンスね)
必要なのは羽根カバーだけではあるまい。午後の陽光(ひかり)に照らされて神秘的に輝く豊かな黒髪の合間、そして、猛禽の嘴を思わせる兜の間から僅かに見える口元は、例え近くでのぞきこまずとも、呉服屋が知っていたころのこの女とは似ても似つかぬ風貌を浮かべているであることは容易に伺えた。
「夢魔将軍」はそして、その2メートルを超える魔法の触媒「うたたかの剣」を軽々と片手で構え、体をよじる。
「バブル・バースト!」
かつて妖精界が人間界と接点を持ち、夢の世界から人類を守護したその世(地雲自身はそんな言い伝えは信じていなかった)、その時代には魔力をもて人間界へと、「皇帝のけもの」(「昔の人はオモチャのデザインがうまかったヤンスね」)の力を伝える強力な発気の術だったその「技」は、しかし今やただの妖精殺しの手段だった。
地上では、空の夢魔将軍から放たれたまがまがしい泡様の有害エネルギーを、直にかぶった防衛隊の妖精たちが肉片、そして素粒子の息吹となり静かに空気を上昇していく。

さっき分泌された興奮がまだ地雲の赤い体の中に残っている。いつも見せている歯をいっそうくいしばりながら、地雲は地上の妖精たちを見下ろす。意外な事に、皆デクとの死闘の手を休めて、上を見上げている。
今まで気付かなかったことだが、昨晩のパレードの中継用に、街中の高層建築の壁面に設置された巨大ディスプレイ。それら全てに、彼、地雲の顔が移しだされているのだ。たった今の、彼とデクの闘い、そして彼が眺めていた夢魔将軍の姿も、中継されていたのだ。
「ア、アチシの姿が街中に宣伝されてたんでヤンスか!?ちょっと照れるでヤンス!」
何となく、たった今顔にかけたアクセサリーが、この事に関係しているのは地雲にも分った。
彼の視界にあらゆる所にかけられたディスプレイを注意深く、どの角度が最も今の状況の人々の心に訴えるかをふむふむと観察し、闘いの赤い神であることを自覚した地雲は叫ぶ。
「お客さんたち、敵はあそこの夢将軍さんでヤンス!雑魚に構わず叩くでヤンス!」
というと同時に、金色のオールバックの巻き下が、破れた壁から入りこんでくる風をうけ、ふわりと動く。
それが、烏合の衆だった「防衛隊」が、「リーダー」を見出した瞬間であった。
元より、催眠都市ではなく、王国全土から王の直命のもとに刈り集められた集団である防衛隊に、かつての隣人であるといったような遠慮は夢将軍に抱ける筈もなかった。
刃先、鎌先、穂先、…その他妖精国の多様性が生んだありとあらゆる「傷付ける道具」の切っ先が、鎧兜の貴人を向く。彼ら彼女らの仲間を傷つけ無慈悲に殺害した夢魔将軍の方を向く。

無論、地雲自身も例外ではない。
真新しく分泌されねばっこくねばる糸を、高速で飛行する夢魔将軍へ向け、地上に叩きつける為に、糸で足場を確保しながらビルから飛び降りる。

地上へ、赤目の蜘蛛が舞い降りて行く。
「ヒャーヒャッヒャッヒャッ!」

(本編Stage 7の(9)へ続く。)